ダイオードには、電流が流れやすい向きと、流れにくい向きがあります。その基本となるのが、p型とn型の半導体を隣り合わせにした「pn接合」です。
でも、性質の違う半導体をつなぐだけで、なぜ向きによって流れやすさが変わるのでしょうか。接合付近で電子と正孔が動き、その動きを妨げる電場ができるまでを追うと、仕組みが見えてきます。
この記事では、空乏層ができる理由から、順方向・逆方向で電流が変わる理由までを、順番に整理します。図はすべてp側を左、n側を右にそろえています。
接合前のp型とn型は、どちらも電気的に中性
n型では電子、p型では正孔が多数キャリアです。キャリアは電荷を運ぶもの、正孔は電子の抜けた場所を正の電荷として扱ったものです。
ここで大切なのは、p型全体がプラス、n型全体がマイナスに帯電しているわけではないことです。移動できるキャリアと、不純物由来の固定電荷などが釣り合い、接合から十分離れた内部は基本的に電気的中性を保ちます。
ドナー・アクセプタや多数キャリアから確認したい場合は、n型半導体・p型半導体とは?|ドーピングで何が変わるのかを先に読むとつながりやすくなります。

以下では理解のために「接触させる前と後」を考えます。実際のpn接合は、半導体の結晶内に不純物濃度の異なる領域を作るなどして形成します。単に2枚の半導体を押しつける、という意味ではありません。
最初に起こるのは、濃度差による拡散
接合ができると、電子は多いn側から少ないp側へ、正孔は多いp側から少ないn側へ広がろうとします。このように濃度の違いによって生じる正味の移動を拡散と呼びます。
電子や正孔はもともと熱によって動いています。境界を行き来する中で、数の多い側から少ない側へ向かう流れが優勢になる、と考えると自然です。最初のきっかけは「p型とn型が逆の電荷だから引き合う」ことではありません。

再結合すると、接合付近の自由キャリアが減る
p側へ渡った電子は、そこで正孔と再結合します。電子が正孔に相当する空きを埋め、移動できる電子と正孔の組が減る現象です。n側へ渡った正孔についても、電子との再結合が起こります。
こうした拡散と再結合により、接合付近には自由に移動できるキャリアの少ない領域ができます。これが空乏層です。
「空乏」とは、主に自由電子や正孔が少ないという意味です。結晶がなくなるわけでも、真空になるわけでもありません。また、実際のキャリア数が厳密にゼロになる、という意味でもありません。
空乏層には、動けない固定イオンが残る
キャリアが減った場所では、これまでキャリアの電荷で打ち消されていた不純物の電荷が表に出ます。n側には正のイオン化ドナー、p側には負のイオン化アクセプタが残ります。
これらは結晶格子の位置に固定されていて、自由電子や正孔のようには移動しません。再結合によって新しく不純物イオンが作られるのではなく、もともとあった固定電荷が打ち消されにくくなる、という順序です。

内蔵電場が、さらなる拡散を妨げる
正の固定電荷と負の固定電荷が空間的に分かれると、接合付近に電場ができます。この内蔵電場の向きは、正の電荷があるn側から、負の電荷があるp側へです。
電子は負の電荷を持つため、電場と逆向き、つまりn側へ向かう力を受けます。正孔は電場と同じ向きのp側へ向かう力を受けます。どちらも、多数キャリアが拡散していく向きと反対です。
つまり、キャリアが拡散した結果として固定電荷が表れ、その電荷が作った電場が、さらなる拡散に逆らいます。この一連の形成と釣り合いは、MITのpn接合の講義資料でも説明されています。
内蔵電位は「渡りにくさ」に対応する
空乏層の電場に対応して、p側とn側の間には電位差が生じます。これを内蔵電位(built-in potential)、または接触電位差と呼びます。
多数キャリアにとっては、反対側へ渡る際のエネルギー障壁に対応します。電子がn側からp側へ進むには、電場から受ける力に逆らう必要がある、ということです。物質でできた壁が挟まっているわけではありません。
なお、内蔵電位は電圧の量で、記号をVbiとすると、電子に対する障壁のエネルギーの大きさはqVbiです。qは電子の電荷の大きさです。電位差とエネルギーは関係していますが、同じ単位の量ではありません。
接合内部に電位差があっても、熱平衡のpn接合をそのまま電池として使えるわけではありません。外部へ電流を取り出し続けるエネルギー源ではないためです。
熱平衡では、拡散とドリフトが釣り合う
電場によるキャリアの移動をドリフトと呼びます。接合形成の初めは濃度差による拡散が優勢ですが、固定電荷と電場が形成されるにつれて、それに逆らうドリフトの効果が強くなります。
外部電圧や光照射などの駆動がなく、温度が一様な熱平衡では、電子についても正孔についても、拡散電流とドリフト電流が打ち消し合います。正味の電流はゼロでも、キャリアの運動が止まったわけではありません。
「いったん拡散して全部止まる」よりも、「行き来は続いているが、差し引きの流れがない」と捉える方が正確です。
バンド図で見ると、同じ障壁が見える
バンド図は、電子が取り得るエネルギーを位置ごとに表した図です。伝導帯は電流を運ぶ電子が入るエネルギー帯、価電子帯は通常多くの電子で占められている帯です。
接合前は、電子の占有状態の目安となるフェルミ準位の位置が、バンドに対してn型とp型で異なります。同じ材料なら、n型では伝導帯寄り、p型では価電子帯寄りです。接合して熱平衡になると、フェルミ準位は全体で一定になります。

図では、n側からp側へ向かう電子にとってエネルギーが上り坂になります。これが、先ほどの障壁です。空乏層、電場、電位差、バンドの曲がりは別々の仕掛けではなく、同じ接合を違う見方で表しています。バンド図と内蔵電位の関係は、東芝のpn接合教材でも確認できます。
順方向では、障壁が低くなって渡りやすい
外部から電圧を加えることを「バイアスをかける」といいます。p側をプラス、n側をマイナスにするのが順方向バイアスです。
順方向の電圧は、接合にある障壁を低くし、空乏層を狭めます。その結果、n側の電子はp側へ、p側の正孔はn側へ渡りやすくなります。反対側へ送り込まれたキャリアは、そこで少数キャリアとなります。この送り込みをキャリアの注入と呼びます。
外部回路がキャリアを補給するため、電流が流れ続けられます。通常の電流の向きはp→nで、電子の移動方向n→pとは逆です。「空乏層が完全になくなるから流れる」と覚える必要はありません。要点は、障壁が下がることです。参考:東芝・順方向バイアス。
逆方向では、障壁が高くなって渡りにくい
逆に、p側をマイナス、n側をプラスにするのが逆方向バイアスです。障壁が高くなり、空乏層も広がるので、多数キャリアは接合を越えにくくなります。

ただし、逆方向電流は完全なゼロではありません。熱によって生じる少数キャリアや空乏層内で生成されるキャリアなどが、小さな電流を運びます。実際の漏れ電流の大きさは、温度や素子によっても変わります。参考:東芝・逆方向バイアス。
さらに逆電圧を高くすると、アバランシェ降伏やツェナー降伏によって電流が大きくなる場合があります。ここでは「逆方向でも、どんな電圧まで小電流のままというわけではない」と押さえておけば十分です。
なぜ一方向に電流を流しやすいのか
ここまでをまとめると、順方向では障壁が低くなって多数キャリアが渡りやすくなり、逆方向では障壁が高くなって渡りにくくなります。
このような電流の流れやすさの非対称性が整流性です。「電場が電子を一方向にしか動かせない」のではなく、電圧の向きで障壁とキャリアの注入量が大きく変わることが、その基本です。
「0.6 Vで突然ON」になるわけではない
シリコンダイオードでは0.6〜0.7 Vという目安を見かけますが、そこに達した瞬間、完全なスイッチのように電流が流れ始めるわけではありません。順方向電流は電圧とともに連続的に増えます。
0.6〜0.7 Vは、ある動作電流や温度でよく現れる順方向電圧の目安です。電流、温度、素子によって変わり、内蔵電位そのものを一律に表す数値でもありません。詳しい電流と電圧の関係はここでは扱いません。参考:MIT・pn接合の電流電圧特性(PDF)。
pn接合とダイオードは同じもの?
pn接合はp型とn型の境界にできる構造で、ダイオードはその性質などを利用した部品です。すべてのダイオードがpn接合でできているわけではなく、金属と半導体の接合を使うショットキーダイオードもあります。参考:東芝・ダイオードの種類。
一方、pn接合の考え方はダイオードだけでなく、LED、フォトダイオード、太陽電池、BJTなどを理解する土台にもなります。
まとめ
pn接合を理解する出発点は、電子と正孔の濃度差です。そこから拡散と再結合が起こり、接合付近の自由キャリアが減ると、固定イオンの電荷が打ち消されずに残ります。
その固定電荷が作る内蔵電場はn→p向きで、多数キャリアの拡散に逆らいます。熱平衡では拡散とドリフトが釣り合い、正味の電流は流れません。
外部電圧をかけると、順方向では障壁が下がり、逆方向では上がります。この「渡りやすさの違い」が、一方向に電流を流しやすい理由です。空乏層を空っぽの場所、逆方向電流を完全なゼロと考えずに、この流れを押さえると、pn接合の働きがつながって見えてきます。


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