ダイオードは、「一方向に電流を流す部品」とよく説明されます。ただし、実際には完全な一方通行ではありません。順方向では電圧に応じて電流が大きく増え、逆方向でも小さな電流が流れます。
その違いを表すのが、電圧と電流の関係を描いたI-V特性です。今回は回路記号の読み方から始めて、「0.7 VでON」という目安の意味、逆方向の降伏、整流への使い方までを整理します。
ダイオードとは? pn接合を部品として使う
ここで扱うダイオードは、2つの端子を持つ半導体デバイスです。代表的なpn接合ダイオードでは、p型側の端子をアノード(A)、n型側をカソード(K)と呼びます。
端子の名前は、電源のつなぎ方を逆にしても変わりません。また、すべてのダイオードがpn接合というわけではなく、金属と半導体の接合を使うショットキーダイオードもあります。
回路記号は、棒のある側がカソード

電流の向きは、正の電荷が動く向きとして決める「慣用電流」で表します。電子の移動方向とは逆なので、両者を混ぜないようにしましょう。pn接合では電子と正孔の両方が電流に関わります。
この記事では、ダイオードの電圧をVD = VA − VK、電流IDの正方向をA→Kとします。VDが正なら順方向、負なら逆方向です。端子とpn接合の対応は、MITのpn接合ダイオード教材(PDF)でも確認できます。
順方向と逆方向では、接合の障壁が変わる
アノードをカソードより高い電位にすると順方向バイアスです。pn接合の電位障壁が下がり、空乏層が狭まり、電子や正孔が反対側へ渡りやすくなります。
反対に、アノードをカソードより低い電位にすると逆方向です。障壁が高くなり、空乏層も広がるため、多数キャリアは越えにくくなります。

空乏層や障壁ができる過程は、pn接合はなぜ一方向に電流を流しやすいのか?|空乏層と内蔵電位から理解するで説明しています。ここからは、その物理が部品の特性としてどう見えるかに進みます。
I-V特性は、直線ではない
横軸を電圧VD、縦軸を電流IDにしたものがI-V特性です。抵抗のように、電圧を2倍にすると電流も2倍になる単純な直線にはなりません。

順方向では、電圧を上げると電流が急激に増えます。一方、降伏に達する前の逆方向では、小さな電流が流れます。さらに逆電圧の大きさを増すと、逆方向電流が急増する降伏領域に入ります。
具体的な電圧や電流は素子によって違います。この図は形をつかむためのもので、部品を選ぶ際にはメーカーのデータシートを確認します。
「0.6〜0.7 VでON」は、計算のための目安
シリコンのpn接合ダイオードでは、順方向電圧として0.6〜0.7 Vという値がよく使われます。しかし、0.7 V未満では厳密に0 Aで、超えた瞬間に電流が流れ始めるわけではありません。
実際の電流は連続的に変化します。指数関数的に増える領域があるため、ある電流範囲では0.6〜0.7 V付近の電圧がよく現れる、という意味です。流れる電流、温度、ダイオードの種類によって順方向電圧は変わります。

左の近似モデルでは、導通中の電圧を一定と置き、電流の大きさは外部の抵抗などから求めます。「0.7 Vを超えれば自動的に安全な電流になる」という意味ではありません。
右の計算例には、pn接合の基本的なダイオード方程式を使っています。
ID = IS [exp(VD / VT) − 1]
ISは飽和電流、VTは温度で決まる熱電圧、expは指数関数です。図は理想係数n = 1の簡単なモデルで、VT = 25.85 mV、IS = 10−14 Aと置きました。これらは説明用の設定値です。
ここでは式の導出より、「電流は電圧とともに滑らかに、しかも急に増える」と読めれば十分です。実際の素子では再結合や内部抵抗などの影響もあり、この式だけですべての電流範囲や降伏を表せるわけではありません。参考:東芝「Basics of Diodes」2.1.5(PDF)。
温度が上がると、順方向電圧はどう変わる?
一般的なSi pn接合ダイオードでは、流す電流を一定にしたとき、温度が上がると順方向電圧が低下する傾向があります。約−2 mV/°Cという値が目安として使われますが、素子や電流条件によって変わります。
特に大電流では内部抵抗の影響もあるため、どの条件でも同じ割合で下がるとは限りません。「0.7 Vは固定値ではない」と理解する上でも、電流と温度の条件をセットで見ることが大切です。
逆方向にも、小さな電流は流れる
逆方向では多数キャリアが接合を越えにくくなりますが、少数キャリアなどが運ぶ小さな電流は残ります。これを逆方向電流、または漏れ電流と呼びます。
実際の漏れ電流は温度や構造にも依存し、一般に温度が高くなると増える傾向があります。「逆方向では流れにくい」は便利な説明ですが、「完全に0 A」と置き換えないようにしましょう。
降伏は、必ずしも故障という意味ではない
逆電圧の大きさを増していくと、ある領域から逆方向電流が急激に増えます。これが降伏(ブレークダウン)です。代表的な仕組みとして、ツェナー降伏とアバランシェ降伏があります。
ツェナーダイオードは、この降伏領域を意図的に利用する部品です。名前は「ツェナー」でも、主に働く仕組みがアバランシェの場合もあります。参考:Nexperia「Diode Application Handbook」2.7(PDF)。
ただし、降伏で大きな電流が流れても無条件に安全という意味ではありません。抵抗などで電流を制限し、許容電力や温度などの定格内で使う必要があります。定格を超える発熱などによって、破壊される可能性があります。
整流では、交流の片側を取り出せる
交流は電圧の向きが周期的に変わります。ダイオードと負荷抵抗を直列に入れると、順方向の半周期では電流が流れやすく、逆方向の半周期では流れにくくなります。

図の向きでは、負荷抵抗に主に正の半周期が現れます。これを半波整流と呼びます。ダイオードを逆向きにすれば、残る極性も逆になります。
出力はまだ山と谷のある脈流で、平らな直流電圧ではありません。また実際にはダイオードの順方向電圧があるため、出力の山は入力より低くなります。全波整流や平滑回路は、ここでは扱いません。参考:MIT・電力変換回路とダイオード。
実際の部品では、ほかの特性もある
回路で使うときには、流せる電流や耐えられる逆電圧、発熱も確認します。順方向に電流を流せば、電圧降下と電流に応じて電力が消費されるためです。
また、接合には小さな容量があり、切り替え時には影響します。pn接合型では、順方向から逆方向へ切り替えたときに、蓄えられたキャリアが抜けるまで逆方向電流が流れる逆回復もあります。
今は「実物には、静的なI-V特性だけでなく速さや限界もある」と押さえておけば十分です。最大電流・最大逆電圧などの定格を含め、部品ごとのデータシートで判断します。
ダイオードには、いろいろな種類がある
| 種類 | 主な特徴・使い方 |
|---|---|
| pn接合ダイオード | 接合の整流性を利用。整流やスイッチングなど。 |
| ショットキー | 金属と半導体の接合を利用。低い順方向電圧や高速性を狙う用途に。 |
| ツェナー | 逆方向の降伏領域を利用し、電圧の基準や制限に使う。 |
| LED | 電子と正孔の再結合によって発光する。 |
| フォトダイオード | 光を電流などの電気信号に変える。 |
ショットキーの順方向電圧や漏れ電流、耐圧は材料や製品によって異なります。「どのショットキーも、どのpn型より低電圧」という比較ではありません。
LEDにはGaNなどの化合物半導体が使われ、発光色や順方向電圧も材料によって変わります。普通のSi整流ダイオードと同じ材料・同じ電圧として扱わないようにしましょう。参考:ROHM・LEDの発光と材料。光を検出する側の仕組みは、浜松ホトニクス・Siフォトダイオード技術資料(PDF)に整理されています。
まとめ:pn接合の物理が、部品の特性になる
pn接合ダイオードでは、p側がアノード、n側がカソードです。順方向では障壁が下がって電流が増え、逆方向では小さな電流に抑えられます。その非対称なI-V特性を、整流などに利用します。
0.6〜0.7 Vは絶対的なON電圧ではなく、逆方向電流も完全なゼロではありません。降伏も、それ自体が必ず故障を意味するわけではありませんが、定格を守って使う必要があります。
回路記号で向きを確かめ、I-V特性で流れ方を見る。この2つをつなげると、「pn接合の物理」が「ダイオードという部品の使い方」に結びつきます。

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