半導体の説明には、「n型は電子が多い」「p型は正孔が多い」という言葉がよく出てきます。でも、電子が多いならn型はマイナスに帯電しているのでしょうか。そもそも、正孔とは何なのでしょうか。
ポイントは、電気を運ぶものが増えることと、物質全体が帯電することは別だという点です。この記事ではシリコン(Si)を例に、微量の元素を加えると何が変わるのかを順に見ていきます。
そもそもなぜSiが半導体材料の主役なのかは、「なぜ半導体はシリコンで作られるのか?」で整理しています。
まず、真性半導体では何が起きている?
不純物の影響を受けない、純粋な半導体を真性半導体と呼びます。Si原子は結合に関わる電子(価電子)を4個持ち、結晶中では隣り合う4個のSi原子と電子を共有して結びついています。これが共有結合です。
室温でも、一部の電子は熱のエネルギーを受け取り、価電子帯から伝導帯へ移ります。価電子帯は主に結合を担う電子がいるエネルギーの範囲、伝導帯は電子が結晶中を移動して電流を運べるエネルギーの範囲です。
このとき、伝導帯に電子が1個生じると同時に、価電子帯には電子が抜けた状態が1個残ります。この「抜け」を正孔(ホール)と呼びます。電子も正孔も、電気を運ぶキャリアです。

熱平衡の真性半導体では、電子と正孔の濃度は等しくなります。濃度は「単位体積あたりに何個あるか」を表します。
n = p = ni
nは電子濃度、pは正孔濃度、niはその温度での真性キャリア濃度です。ここでは「電子と正孔が同じ数だけある」と押さえれば十分です。
ドーピングは、キャリア濃度を調整する操作
純粋なSiのキャリア濃度は温度に左右され、回路に必要な電気特性をそのまま自由に選べるわけではありません。そこで、ごく少量の別の元素を精密に加えて、キャリア濃度を意図的に制御します。この操作がドーピングです。
「不純物」といっても、適当に材料を汚すわけではありません。加える元素と量を管理して、電子が多いn型、正孔が多いp型を作ります。
n型:ドナーが電子を供給する
Siにリン(P)を加える場合を考えます。Pの価電子は5個。そのうち4個は周囲のSiとの共有結合に関わり、残る1個は比較的弱く束縛されます。
この電子は、最初から完全に自由というわけではありません。小さな熱エネルギーで束縛を離れ、伝導帯へ移りやすいため、電流を運べる電子が増えます。こうした電子を供給する不純物をドナーと呼びます。donorは「与えるもの」という意味です。
SiではPのほか、ヒ素(As)やアンチモン(Sb)も代表的なドナーです。いずれも価電子を5個持つ元素です。

n型はマイナスに帯電しているの?
n型だから物質全体が負に帯電している、という意味ではありません。ドナーが電子を放出すると、そのドナー側には正の電荷が残ります。Pを例に書けば、次の関係です。
P → P+ + e−
動ける負の電子が増える一方で、結晶中に固定された正のドナーイオンも生じます。この両方を数えると、均一な材料の内部は基本的に電気的中性です。n型のnは、主に電気を運ぶキャリアが負の電子であることを表します。
ここでいう中性は、原子一つひとつが常に中性という意味ではありません。また、接合付近などでは局所的に電荷の偏りが生じます。これは後でpn接合を考えるときに大切になります。
p型:アクセプタが電子を受け取り、正孔が増える
今度はSiにホウ素(B)を加えます。Bの価電子は3個なので、Siと同じように4本の結合を満たすには電子が1個足りません。
Bは価電子帯の電子を受け取りやすく、その結果、価電子帯に電子の抜けた状態、つまり動ける正孔が残ります。このように電子を受け取る不純物をアクセプタと呼びます。acceptorは「受け取るもの」という意味です。

正孔は、結晶の中を飛び回る「陽子」ではない
正孔は、価電子帯で電子が抜けた状態を、正の電荷を持つキャリアとして扱うものです。陽子が動き出したり、別の正の粒子を材料に注入したりするわけではありません。
たとえば、席が一つ空いている列を想像してください。隣の人が空席に移ると、空席は逆方向へ動いたように見えます。電子が抜けた場所へ別の電子が移ることで、正孔が移動するという直感に近いイメージです。
ただし、実際の結晶中の電子を「席に座った人」と同じものとして扱えるわけではありません。これはあくまでたとえです。正孔は単なる言い換えではなく、電流や磁場への応答を説明する際にも、正電荷のキャリアとして有効に扱えます。
p型も、全体としては電気的中性
アクセプタが電子を受け取ると、今度はアクセプタ側が負にイオン化されます。
B + e− → B−
価電子帯には正のキャリアである正孔が増え、結晶中には固定された負のアクセプタイオンが生じます。したがってp型も、均一な材料の内部では基本的に中性です。「p型=正に帯電した物質」ではありません。
n型でもp型でも、「動けるキャリア」と「固定された不純物イオン」をセットで考えると、電荷のつじつまが合います。
多数キャリアと少数キャリア
数が多い側を多数キャリア、少ない側を少数キャリアと呼びます。
| 半導体 | 多数キャリア | 少数キャリア |
|---|---|---|
| n型 | 電子 | 正孔 |
| p型 | 正孔 | 電子 |
n型にも正孔はあり、p型にも電子はあります。熱による電子・正孔の生成は起こるので、片方が多くなっても、もう片方がゼロになるわけではありません。
バンド図ではどう見える?
エネルギーの図で見ると、ドナーは伝導帯のすぐ下にドナー準位を、アクセプタは価電子帯のすぐ上にアクセプタ準位を作ります。「準位」は、電子が取りうるエネルギーの位置です。
ドナーからは少ないエネルギーで電子が伝導帯へ移れます。アクセプタの場合は、価電子帯の電子がアクセプタ準位へ移ることで、価電子帯に正孔が残ります。
もう一つの目印がフェルミ準位 EFです。これは、電子が各エネルギー状態をどの程度占めるかを決める基準です。電子の軌道や、「そこに電子がいる」という線そのものではありません。

- 真性:フェルミ準位は、おおむねバンドギャップの中央付近。
- n型:フェルミ準位が伝導帯側へ近づく。
- p型:フェルミ準位が価電子帯側へ近づく。
図は、高濃度でないドーピングをしたSiを、熱平衡で比べたものです。正確な位置は温度や濃度で変わります。ドナー・アクセプタ準位と、フェルミ準位は別の意味を持つ線だと押さえてください。
ドーピングすると、バンドギャップが小さくなる?
基礎的なn型・p型の説明では、バンドギャップ自体が大幅に小さくなることが主因ではありません。不純物準位ができ、フェルミ準位やキャリア濃度が変わることがポイントです。
ただし、高濃度にドーピングすると、バンドギャップが狭くなる現象(band gap narrowing)も起こりえます。「ドーピングしても絶対に変わらない」とまでは言えません。今回は通常の基礎モデルに絞ります。
キャリアが増えると、電気伝導はどう変わる?
弱い電界を加えたときの導電率σは、基本的に次の式で表せます。
σ = q(nμn + pμp)
qは電気素量(電子1個の電荷の大きさ)、nとpは電子・正孔の濃度です。μnとμpは、それぞれの移動度、つまり電界によってどれだけ動きやすいかを表します。
電気の流れやすさには、キャリアの数だけでなく動きやすさも関わります。通常のn型Siでは主に電子、p型Siでは主に正孔が電流を担います。なお、電界による電子の移動方向は、その電子が作る電流の向きとは逆です。
n型とp型を接合すると、pn接合へ
n型とp型を接合すると、濃度の違いによって電子と正孔が拡散します。接合付近には動けるキャリアの少ない空乏層ができ、電界と内蔵電位が生じます。
これがpn接合の入口です。接合に電圧を加えたとき、なぜ一方向に電流が流れやすくなるのか。その理解にも、今回の「動けるキャリア」と「固定されたイオン」の区別が役立ちます。
まとめ
- 真性半導体では、熱平衡で電子と正孔の濃度が等しくなる。
- ドーピングは、微量の元素を精密に加えてキャリア濃度を制御する操作。
- Siでは5価元素のドナーでn型、3価元素のアクセプタでp型を作れる。
- n型の多数キャリアは電子、p型は正孔。少数キャリアも存在する。
- 正孔は電子の抜けた状態を正のキャリアとして扱うもので、陽子ではない。
- n型・p型とも、キャリアと不純物イオンを合わせた材料全体は基本的に電気的中性。
n型・p型は、材料の帯電の向きではなく、主に電気を運ぶキャリアの違いです。この区別がつくと、pn接合やダイオードの話へ進みやすくなります。
参考資料
結合図・バンド図は、以下の大学教材等で物理内容を確認したうえで独自に作成した模式図です。実測画像や原子の実際の形・軌道を示したものではありません。
- MIT 6.012 Lecture 2:Semiconductor Physics(PDF)— Siの共有結合、熱生成、ドナー・アクセプタ、電荷中性。
- TU Wien:Semiconductor Physics — キャリアと半導体の基礎。
- MIT 3.024 Lecture 17(PDF)— 不純物準位、導電率、フェルミ準位と中性条件。
- MIT 6.720 Lecture 3(PDF)— キャリア濃度とフェルミ準位。
- TU Wien:Bandgap Narrowing — 高濃度ドーピング時のバンドギャップ狭窄。


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