オシロスコープの仕様表には、100 MHz、1 GS/s、10 Mptsといった数字が並んでいます。どれも大きいほど高性能に見えますが、それぞれ違うことを表しています。
例えば「1 GS/sなら1 GHzの信号まで見える?」「100 MHzの信号なら200 MS/sで十分?」。このあたりは、サンプリングレートと周波数帯域を分けると整理しやすくなります。
この記事では、帯域は入力信号を通す性能、サンプリングレートは時間方向に点を取る細かさとして、仕様表の読み方を確認します。ここでは、デジタルオシロスコープで連続した1回分の波形を取得する場合を考えます。
サンプリングレートは「1秒間の取得点数」
サンプリングレートは、信号の電圧を1秒間に何回取得するかを表します。単位はS/s(samples per second)です。1 GS/sなら1秒あたり10億点、1 MS/sなら100万点になります。
サンプリング間隔をTs、サンプリング周波数をfsとすると、Ts = 1 / fs。1 GS/sでは、1 nsごとに1点を取る計算です。
周期・周波数・単位の関係を先に確認したい場合は、サンプリング周期とサンプリング周波数の違いで整理しています。
周波数帯域は「入力部が信号を通す性能」
信号は、すぐに数値へ変わるわけではありません。まずアナログ入力回路を通り、ADC(電圧を数値に変える回路)でデジタル化されます。周波数帯域は、この入力部の周波数応答に関わる仕様です。
一般的な帯域仕様では、正弦波の振幅応答が低周波での応答に対して約−3 dB、約0.707倍になる周波数を帯域端とします。帯域100 MHzは「100 MHzまで完全にそのまま通る」という意味ではありません。帯域端では、すでに振幅が小さくなっています。[1]

サンプリングレートと帯域は、両方が必要
| 見る項目 | サンプリングレート | 周波数帯域 |
|---|---|---|
| 表すもの | 1秒間の取得点数 | 入力部の周波数応答の目安 |
| 主な単位 | S/s、MS/s、GS/s | Hz、MHz、GHz |
| 値を大きくすると | 取得点の時間間隔が短くなる | より高い周波数成分を通せる |
サンプリングレートだけ高くしても、入力回路で大きく弱まった高周波成分を、細かく点を取るだけで取り戻すことはできません。逆に入力部が信号を通せても、点の取り方が粗すぎると、本来と違う波形として記録されることがあります。
つまり、信号を通す段階と、点にする段階の両方を確認する必要があります。
「帯域100 MHz・1 GS/s」の例で考える
帯域100 MHz、最大サンプリングレート1 GS/sのオシロスコープを考えます。
1 GS/sは「1 nsごとに点を取れる」という意味で、1 GHzまで観測できるという意味ではありません。1 GHzの正弦波は帯域100 MHzを大きく超え、入力部の通過性能が足りません。サンプリングの条件も別に満たす必要があります。
100 MHzの正弦波なら1周期は10 nsなので、実際に1 GS/sで取得していると、1周期あたり10点です。ただし、これは点数の計算。帯域端の振幅減衰がなくなるわけではなく、100 MHzを完全に忠実に測れる保証にはなりません。
ナイキストの「2倍」だけで十分?
最高周波数fmaxより上の成分を含まない、理想的な帯域制限信号を考えると、等間隔のサンプルから元の信号を復元する条件はfs > 2fmaxです。[2]
ただし、この条件を満たすことと、実機で波形を見やすく、必要な精度で観測できることは同じではありません。100 MHzに対する201 MS/sは約2.01点/周期。「2倍を超えたから、きれいに見える」とは判断できません。
実際の表示には、点の間をどうつなぐかという補間や、信号に含まれる高周波成分、取得条件も関係します。必要な余裕は波形と機種で異なるため、万能な「必ず何倍」という値にはしません。[1][3]

正弦波と矩形波では、必要な帯域が違う
100 MHzの正弦波と、1秒に1億回繰り返す矩形波は、同じ「100 MHz」でも中身が違います。矩形波は、四角い形や鋭い立ち上がりを作るために、基本周波数より高い高調波を含みます。
基本周波数だけを見て帯域を決めると、高い成分が弱まり、角が丸く見えることがあります。パルスの形や立ち上がりを見たいなら、繰り返し周波数だけで判断しないことが大切です。[2]

立ち上がり時間と帯域の関係
立ち上がり時間は、波形が低い値から高い値へ変化する速さの目安です。ここでは、変化幅の10%から90%まで上がる時間を考えます。
オシロスコープ自身の立ち上がり時間trと帯域BWには、tr ≈ 0.35 / BWという近似がよく使われます。BWをHzで入れると、trは秒になります。係数0.35を使えば、100 MHzで約3.5 nsです。
ただし0.35は、一次の低域通過応答などを想定した係数です。実際の周波数応答によっては0.40〜0.45程度など別の値になり、すべての機種に同じ式を当てはめることはできません。測定対象そのものの立ち上がり時間を、この計算だけで求められるわけでもありません。機種の仕様と測定条件を確認します。[2][4]
サンプリングレートは、常に最大とは限らない
仕様表の「最大1 GS/s」が、すべての設定で維持されるとは限りません。機種によって、使用チャンネル数、Time/div(横軸1目盛りの時間)、記録時間、メモリ長、取得モードなどが関係します。
例えばKeysightのInfiniiumの設定説明では、時間軸とメモリ長に応じてサンプリングレートを自動設定する動作が示されています。また、89600ソフトウェアで6000 Xシリーズを使う設定表には、Half ChannelとFull Channelで最大値が20 GSa/sと10 GSa/sになる例があります。いずれもその機種・構成での話です。[3][5]
測定中は、仕様表の最大値だけでなく、現在の設定で表示されているサンプリングレートを確認しましょう。取得モードによって点の保存・処理方法が変わることにも注意します。
メモリ長は「何点を保存できるか」
メモリ長(レコード長)は、1回の記録に保存する点数です。単純な等間隔サンプリングでは、必要な点数はおおよそ次の関係になります。[1]
必要サンプル数 ≈ サンプリングレート × 記録時間
1 GS/sで1 ms記録するなら、109 × 10−3 = 106。約100万点、つまり1 Mpointが必要です。10 Mptsは1000万点を表します。ここでの点数はバイト数ではありません。
同じメモリ長で記録時間を延ばすと、維持できるサンプリングレートには限界があります。高いレートで長く記録したいほど、大きなメモリが必要になります。点数のチャンネル間での共有やモードの制約は、機種ごとに確認してください。
仕様表では、この5つを一緒に見る
- 周波数帯域:見たい周波数成分や速い変化を通せるか。
- サンプリングレート:必要な間隔で点を取れるか。
- メモリ長:その間隔で、必要な時間を記録できるか。
- チャンネル数:同時に使う本数と、そのときの取得条件。
- プローブ帯域:オシロスコープに届く前に、信号を大きく変えていないか。
プローブも測定系の一部です。本体の数字だけを見ず、プローブを含めた条件で考えます。ここでは機種を選ぶよりも、それぞれの数字の役割を分けて読めることを目指しましょう。[1]
まとめ
サンプリングレートは「1秒間に何点取るか」、帯域は「入力部がどのように周波数成分を通すか」の目安です。一方だけ高くても、波形を十分に捉えられるとは限りません。
ナイキスト条件は大切ですが、実際の表示には補間や取得条件も関係します。特に矩形波・パルスでは高周波成分や立ち上がりも意識し、メモリ長と記録時間まで合わせて確認すると、仕様表の数字がつながって見えてきます。
参考資料
[1]Tektronix:Evaluating Oscilloscope Bandwidth, Sample Rate, and Key Specifications
[2]Rohde & Schwarz:Making Better Oscilloscope Measurements(§2.3、2.4、3)
[3]Keysight:Infiniium Acquisition Tab
[4]Tektronix:How is bandwidth related to rise time for oscilloscopes?
[5]Keysight:Hardware Configuration Parameters(6000 X-Series)
資料確認:2026年10月6日。図は理系の余白が作成した説明図です。具体的な測定では、使用機種・プローブの仕様をご確認ください。


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